2006年9月に骨転移の治療を開始してからの私は、家族と一緒に近場ながらもいろんな所に出掛けた。楽しい思い出を作りたいとか、そんな思いからではない。ただ普通に、家族で過ごす日々を満喫していたと言える。医療者や周りの人たちから「この人は、がんが再発している。まだ若いのにかわいそうに・・・」という同情や哀れみのまなざしを向けられるのだけは嫌だった。私はいつも、どんな時でも凛としていたい。たとえシビアな状況であっても希望を持ち続けていたい。別に大それた希望ではなく、明日は今日よりはちょっと良い一日だったらいいな・・・。本を読み、音楽を聞き、子どもたちと楽しく過ごせたらいいな・・・という、ささいな希望。病院とは病気になった人が行くところだ。そう考えただけで気持ちが沈んでいく。しかしこんなマイナスな気持ちこそが、がん患者には大敵なのだ。これは病んでから気付いたことだが、医師や看護師の一言で気持ちがぐっと高まるときがある。逆の場合もあるのだが、うまく言い表せないけれども、カチっとスイッチが入ったような・・・。それはまるで素晴らしい音楽を聴いたときの感覚にも相通じるものがある。その幻想的な光景の中に、あたかも自分が漂い夢のような時を過ごしているような・・・。(西日本新聞 『生きてる・・・』より 西冨貴子)