がんの治療によって、男性でも性機能や生殖能力に影響が出ることがある。治療の後にどんな性生活が送れるのか。患者のQOL(生活の質)にも大きく関係する。デリケートな問題だが、患者や家族は医師にしっかりと希望を伝え、話し合うことが大切だ。横浜市に住む無職の男性(63)は3年前、たまたま受けた検査で前立腺がんが見つかった。医師から「根治させるには、前立腺をすべて摘出する必要がある」と説明された。同時に、男性器の勃起に関係する神経を傷つけることになり、「勃起はしなくなる」と伝えられた。「独り身で、もう必要ないだろう」と手術を決めた。手術は成功した。しかし、性欲は消えなかった。気持ちはあるのに、体がついていかない。アンバランスな状態に気がめいり、軽いうつのような状態にもなった。そんなときに出会った女性(48)と、昨春から付き合い始めた。セックスできないことは知っている。女性は、「腕まくらをして、抱きしめてくれるだけでいい」と言ってくれた。それでも男性は、勃起不全をどうにかしたいと思い始めた。「挿入がすべてではないが、勃起できるかは男としてのプライドにかかわる」と男性は言う。医師から何度も「あきらめて」と言われたが、処方された性機能改善薬のバイアグラを飲むと、少しだけ勃起した。さらに都内の大学病院で、男性器の血液流入を増やす薬を男性器に注射する治療を受けたところ、満足できる硬さにまで勃起させることができた。注射器や薬剤を処方され、性行為の前に自分で1回注射すればいいという。「これからの人生を前向きに考えることができるようになった。がんの手術で性機能を失って、あきらめている男性は多いはずだ」という。(朝日新聞)