11月には妻と南米へ。半年前から予定を立て、マチュピチュなどの世界遺産を訪ねた。「病院には無理を胃って、治験の参加を少しずらしてもらいました」。帰国して5日後。転院後3度目の治験に入った。1カ月の入院を要し、心細さもあった。「自分は前向きな性格だけど、全く不安がないわけじゃない」。町内会のソフトボールチームで仲良くしている友人(65)にメールを送った。我のがん 好きなだけ飲め しぐれ酒 早く友達と語らいながら酒でも飲みたい。窓から見える初冬の冷たい雨に、自らの孤独感を重ねた。友人は涙ぐんだ。自らも膀胱がんになり、不安を吐露したとき、男性は「大丈夫」と励ましてくれた。海外に出かける姿は「がんの先輩」として頼もしかった。「しぐれ」という表現に、入院中の男性の心情を思った。男性の外泊が認められた週末、友人も含めて近所の4人が集まった。山のこと、旅のこと、大いに笑いながら、語り合った。(3月20日 朝日新聞 患者を生きる 胃がん より)