がんになったら、治療で仕事を休んだり、働く時間が短くなったりして、収入が減ることも多い。医療費の自己負担を軽くする「高額療養費制度」では、70歳未満を対象にした仕組みが今年1月に変わり、年収約770万円を超える人では負担が増えた。利用可能な保険や公的制度を知って欲しいと、ウエブサイトを立ち上げたNPO法人もある。この1月に見直された70歳未満の人の高額療養費制度では、自己負担の上限額が年収に応じてより細かく分類された。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)のがん相談統括専門職・坂本はと恵さんは「負担が減った人もいますが、増えた人もいます」と言う。自己負担が減ったのは年収約370万円まで(住民税非課税者以外)の人で、逆に年収約770万円以上の人は増えた。例えば、ひと月100万円の医療費がかかった場合(窓口負担3割)、年収約370万円までは、見直し前は8万7430円だが、1月以降は5万7600円ですむ。年収約770万円~約1160万円は、1月以降は17万1820円と1万7千円近く増える。窓口負担が上限額ですむよう、治療開始前に自分が入っている健康保険組合などで「限度額適用認定証」などを入手するとよい。「年収約770万円以上の人は、『多数回該当』の負担も増えたことに注意してください」と坂本さん。多数回該当は、治療が長期化した場合に上限をさらに減らす仕組みで、直近の1年に3回、高額療養費の支給を受けていれば、4回目から適用される。その上限が9600~5万6700円増えた。大腸がん治療の化学療法のケースでみてみる。複数の抗がん剤を組み合わせた「mFOLFOX6療法」と分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)は切除できない進行再発がんに適用になる。2週間に1回治療を受ける場合、体重60キロ、身長約150センチの患者が最大限使用すると、1カ月分の薬剤費は約57万円。診療費や検査代を合わせると計約64万円、3割負担で19万2千円になるという。効果が無くなるまで使うことが多く、多数回該当になりやすい。「高額な抗がん剤が登場し治療期間も長くなっている。高額療養費制度があっても、費用負担に悩む患者は多い」と坂本さんは指摘する。(5月28日 朝日新聞より転載)