世界の胃がん患者数は中国が約4割、日本が1割を占め、東アジア全体で約6割を占める。欧米は少なく、先進国では日本は突出して多い。胃がんのリスクを高めるピロリ菌の感染率が高いこと、塩分の多い食生活や喫煙習慣などが影響していると見られる。胃がんの初期症状には、胃の痛みや不快感、胸焼け、体重減少などがある。異変を感じたら、医療機関で検診を受けることが重要だ。胃がんは早く見つけて切除すれば治りやすいがんだ。がん治療の効果は、患者が治療5年後に生存している割合と日本人全体が5年後に生存している割合の比率「5年相対生存率」で表される。国立がん研究センターのまとめでは、転移などがなく、がんが胃だけにとどまっていれば、5年相対生存率は96%と高率だ。また、胃がんの約65%が早期の1期に見つかっている。1期までに見つかるケースが3,4割の大腸、肝臓、肺などのがんに比べて、胃がんは早期発見されることが多い。しかし、胃壁の表面にある粘膜にあまり出てこないため、発見が難しいタイプの胃がんもある。発見が遅れて遠くの臓器などに転移した場合や再発した場合、切除しても取り切れず、すぐ再発するなど、手術がかえって患者の不利益になることもある。それらの場合、手術しないのが標準的だ。手術不能な胃がんについては、1990年代に欧米で行われた比較試験で、抗がん剤を使うと生存率が大きく高まることが示された。日本の医療機関は胃がんの手術経験が豊富で、化学療法と組み合わせた治療も進んでいる。連載で紹介した女性(74)は、胃を全摘する手術のあとに1年間、化学療法を受けた。再発率を下げる効果があり、進行した胃がんの標準治療になっている。一方、女性が受けた「手術前の化学療法」は、有望な治療法として期待されるものの、効果があるかどうかの検証はこれからという。近年は、切除不能とされた場合でも、抗がん剤が非常によく効いてがんが小さくなり、治療を手術に切り替える「コンバージョン(変換)治療」も試みられている。(7月4日 朝日新聞 患者を生きる より)