東京都のグラフィックデザイナー、徳永寛子さん(33)は2012年6月、国立がん研究センター中央病院でメラノーマ(悪性黒色腫)の摘出手術を受けた。腫瘍の厚さが1ミリ以下なら早期のがんで、1センチ外側までを切れば済む。厚さが1ミリを超えると進行度に応じて切る範囲は1~2センチ外側になる。主治医の山崎直也さん(55)は「腫瘍は1ミリより厚く、早期ではない」と判断した。傷口に皮膚を移植するかどうかは、手術中に判断することになった。さらに手術では、がんが転移した場合、最初に行き着くリンパ節を調べる検査もする。もし転移が見つかれば、周囲のリンパ管を含めて切除するのが一般的だ。手術は3時間ほどかかった。麻酔から覚めた徳永さんに、山崎さんは「手術中の検査では、リンパへの転移は見つかりませんでした。ただ、詳しい結果が出るまでに時間がかかります。皮膚は移植せずに済みましたよ」と伝えた。10日間の入院中に30歳の誕生日を迎えた。入院前は、チラシなどを制作するデザインの仕事が忙しく、終電で帰る日々だった。帰りが遅いと不満を言う夫43)に、「仕事で遅いのに、何が悪いの?」と開き直ることもあった。だが、がんになって、仕事を最優先に考える価値観が変った。仕事は週3日だけにして、休日は自宅で夫と過ごす時間を大事にした。「もう一度、人生を見直せよ、と言われたようだった」。この頃、会員制のブログのサイトで、メラノーマの患者が集まるグループに入った。会ったこともない人たちだが、患者同士だからこそできる共通の話題で、気持が通じることが多かった。退院2週間後に受診すると、山崎さんから告げられた。「残念だけど、取ったリンパ節を詳しく調べた結果、小さな転移がありました。もう一度手術して、脇のリンパ節をできるだけ取ります」。徳永さんのがんは、転移がなければステージ2で、5年生存率は70~80%。わずかでも転移していれば、ステージ3となり、生存率は50~60%に下がる。「メラノーマとわかった時よりショックでした」。(7月16日 朝日新聞 患者を生きる メラノーマより)