千葉県流山市の荒井治明さん(73)は2014年8月、前立腺の組織を取る検査で、がん細胞が見つかった。地元の東葛病院で検査を担当した泌尿器科の小澤雅史科長(48)は、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)に紹介状を書いてくれた。9月中旬、荒井さんは妻の多恵子さん(71)と一緒に、泌尿器・後腹膜腫瘍科の酒井康之医長(46)を訪ねた。荒井さんの前立腺がんは転移がなかった。転移のない前立腺がんは通常、PSAの値やがん組織の悪性度などからリスク評価をして治療方針を決める。荒井さんはリスク評価で「低」と「高」の間の「中間リスク」と診断された。「手術のほか、放射線照射などが治療の選択肢になるでしょう」。酒井さんはそう説明した。荒井さんは「手術できるなら、手術で」と希望を伝えた。過去に胃がんで2度の手術をした経験から、「がんは早く見つけて手術できれば、怖くない」という思いがあった。10月初旬、再度の外来で、酒井さんは手術や放射線など、様々な治療法の長所や短所について説明したあと、こう付け加えた。「手術の場合、最近はロボット手術というものがあって、この病院でも受けることができますよ」。昔はロボットと言えば「鉄腕アトム」だった。「ロボット手術」というものが日本でも行われていることは、テレビで見て知っていたが、まさか自分が受けることになるとは思わなかった。知り合いに聞いても手術を受けた経験者はいなかったが、腹を決めた。「ロボットといったって、動かしているのは人間。ロボットが勝手に判断して手術を進めてしまうわけではないし・・・」。そう自分を納得させた。1週間後の外来で、酒井さんは荒井さんに治療方法の希望について改めて確認した。「ロボットを使った手術になると思いますが、そのままの方法で良いですか」。荒井さんは迷うことなく、「お願いします」と答えた。10月22日に入院。手術ロボットを使った前立腺の摘出手術を24日に受けることになった。(9月10日 朝日新聞 患者を生きる 前立腺の手術より)、