急性リンパ性白血病と診断された宮崎県日向市の女性(21)は2012年1月、骨髄移植を受けるため九州地方の総合病院に入院した。骨髄の提供者は「40代の女性」とのことだった。骨髄移植を受ける患者は、前処置として、大量の抗がん剤を点滴し、全身に放射線を当てて白血病細胞を減らし、同時に自分の造血幹細胞も死滅させる。その後、提供者から採取した骨髄液を移植し、提供者の健康な造血幹細胞が患者の骨髄で血液細胞をつくるようになる。さらに、移植した骨髄液には免疫細胞の「Tリンパ球」が含まれていて、その細胞が女性の体に残る白血病細胞を攻撃して減らす効果も期待できる。一方で、提供者のリンパ球が、女性の体を異物とみなして攻撃する移植片対宿主病(GVH病)を起こす恐れもある。下痢や黄疸、皮膚の炎症などが起き、重症になると命にかかわる。それでも女性は「移植を受けなければ治らない。怖がるよりも移植のメリットを信じて進もう」と腹を決めた。移植の日、病室に届いた骨髄液の容器を見て、女性は提供者のことを思った。「健康な体に針を刺して骨髄を提供してくれた人がいる。必ず治そう」。移植後は、GVH病による激しい吐き気に見舞われ、ほとんど食事もできなかった。自宅に戻れたのは、移植から半年後の2012年7月。2013年春からは通信制の高校へ転入し、勉強を再開した。移植から1年9カ月がたった2013年11月、検査に通っていた県立延岡病院で、主治医の外山孝典さん(51)から、恐れていたことを告げられた。「再び白血病細胞が出てきました。再発しているようです」。女性は外山さんの前で始めて涙を見せた。「これから先はいいことばかりだと信じていたのに」。外山さんは女性の両親と、今後の治療を話し合うことにした。母親(48)は、以前にテレビ番組で見た新しい治療法について、外山さんに尋ねた。「ハプロ移植」。八つのHLA(白血球の型)が完全に一致でなくても、半分合っていれば移植をする方法だ。親子なら必ず提供者になれる。母親は「自分が提供者になろう」と決めていた。(10月8日 朝日新聞 患者を生きる 白血病 より)