「家族性大腸腺腫症」と診断された大阪府の会社員の男性(30)は、2009年2月に石川消化器内科(大阪市)を受診した。この病気は大腸に多数のポリープができる。院長の石川秀樹さん(55)は、次々にできるポリープを切除し続ける治療をしている。ポリープを取る際には、内視鏡を通して空気を入れ、圧力をかけ、折りたたまれている腸を広げる。強い痛みを感じた。初回は、1時間あまりかけて96個のポリープを取った。男性は痛みに耐えながら、石川さんがポリープを取る様子をモニター画面で見つめた。「こんなやり方で、何とかなるのだろうか。きりがないのではないか」。そんな思いも頭をよぎったが、大腸の全摘手術は避けたかった。手術を「先延ばし」にするため、この治療を続けることした。通常の治療では1年ほどの間隔でポリープを切除すればよいが、男性の場合はポリープの成長が速く、3、4カ月に1回通う必要があった。最初のころは治療後2、3日は体がつらく、腹がはったようになり、腸が痛んだ。金曜日に勤務を休んで治療を受け、土日は静養するようにした。いまのところ、ポリープは良性で、がんは見つかっていない。もし、がんが見つかったら大腸の摘出手術も検討しなければならないという。また、内視鏡で取るのが困難な十二指腸にポリープができた場合には、十二指腸の摘出手術も必要になる。この病気は2分の1の確率で子どもに遺伝する。自身もいつがんを発症するかわからない。男性は20代半ばのころ、付き合っていた女性に病気のことを打ち明けた。反応は「重い」だった。「だれかに知ってほしいという気持を一方的に押し付けてしまったんです」。女性とは間もなく別れた。2009年の帰省の際、父親(65)に石川さんの診断書を見せたら泣かれてしまった。「息子が母親と同じ病気になったことにショックを受けていたんです」。その後、父親とは病気の話ができなかった。悩みを相談できる相手もなく、男性は精神的に追い込まれていった。「治療に行かなければ、そのまま死ねるのではないか」。そんなことも考えた。(10月29日 朝日新聞 患者を生きる ポリープとの闘い より)