せきがなかなか止まらず、たんが多いのが気になった。愛知県に住む会社員の男性(58)は52歳だった2009年2月、近所の医院の勧めもあり、愛知医科大学病院(愛知県長久手市)の呼吸器内科でCTやPET検査を受けた。右肺に6センチの腫瘍が見つかった。数日後、気管支鏡などの詳しい結果を聞きに行った。「ステージ3の肺腺がんです」。医師からそう告げられた。がんの告知はもっと重々しい雰囲気だろうと思っていたが、あっさりとした医師の説明に拍子抜けした。医師はすぐに手術内容を語り、最後にこう付け加えた。「5年後の生存率は50%です。リンパ節転移はありますが、腫瘍が1カ所なので手術ができます」。がんを宣告されたものの、「手術ができる」という医師の言葉に、男性はホっとした。「まだまだやりたいことがあるから、しっかり治してもらうよ」。男性は妻(54)に伝えた。5月に手術を受け、約7時間かけて腫瘍を摘出した。手術後、妻は医師から切除したばかりのがん組織を見せられた。黒っぽい、いかにも「悪役」という感じのする腫瘍だった。「さわってみますか?」と医師に促され、ゴム手袋をして指でつつくと、見た目よりゴツゴツして硬かったという。退院後は職場に復帰し、以前を変らず外回りも積極的に引き受けた。食欲もあって体調は良く、がんになる前と変らない日々が続いた。「5年間、転移がない状態が続けば、安心できますよ」。医師からはそう言われていた。しかし、手術から2年あまりたった2011年9月、病院の検査で再び異変が見つかった。がんが脳に転移していた。腫瘍は6カ所あり、いずれも数ミリの大きさだった。「またがんばって、がんと闘うしかないな」。診察室で医師から転移を告げられたのに、男性は自分が平静なのに少し驚いていた。今回は手術以外の治療法の治療法になるという。医師は「ひとつの選択肢として、放射線を使った最近注目のサイバーナイフという治療法があるのですが」と切り出した。サイバーナイフ・・・・。初めて聞く言葉だった。(11月24日 朝日新聞 患者を生きる サイバーナイフより)