肺カルチノイドは肺がんの一種だ。患者数は少なく、新たに診療される肺がん患者全体の1%未満と推定されている。ただ、一般的な肺がんに比べて悪性度は低いとされ、病気の進行は比較的ゆっくりしている。早期に発見し、手術で切除すれば、治るケースが多い。国立がん研究センターによると、受診患者の平均は50代だが、30代で発症する人もいる。男女差はほとんどないとみられる。喫煙歴との関連は、他の種類の肺がんに比べて低いとされている。肺カルチノイドには、悪性度が低い「定型」と高めの「非定型」とがある。約8割の患者が「定型」という。初期の場合は、自覚症状がないことも珍しくない。健康診断などで胸部のX線検査を受けた際に、丸くて濃い影が見つかり、治療のきっかけになるケースが多い。病気が進行すると、せきやたんが増える。肺の中枢に腫瘍ができた場合、肺葉がつぶれる「無気肺」になったり、腫瘍から出血して血痰が出たりすることがある。このほか、顔面の紅潮や下痢などの症状がみられるケースもある。肺カルチノイドと通常の肺がんとを判別するには、組織を採って調べることが必要だ。また、肺の腫瘍を切除する手術を受けた人が、手術の病理検査で肺カルチノイドと判明するケースも多い。肺カルチノイドの治療は、手術で腫瘍を取り除くのが基本だが、ほかの臓器への転移がある場合は抗がん剤による治療が行われる。連載で紹介した金子哲雄さんの場合は末期で、肺の腫瘍の直径が約9センチと大きく、骨にも転移していた。このため、手術で取り除くことができず、腫瘍を縮小させようと、周囲の血管をふさぐ治療法を選択した。欧州で行われた調査によると、肺カルチノイドの腫瘍を切除した患者の5年生存率は、早期の1期では約90%、2期で75~85%、進行した3期で約50%という。国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)の大江裕一郎副院長'(呼吸器内科)は「他の肺がんと同様に、手術が可能な早い段階で発見することが大切だ」と話している。(11月21日 朝日新聞 患者を生きる 金子哲雄の旅立ち 情報編より)