●置き去りになっていた心 昨年11月、50歳の夫を急性骨髄性白血病で亡くしました。春に病気がわかり、7カ月間の入院のほとんどを無菌室で過ごしました。面会は家族だけ。私は毎日仕事が終わると病室に行きました。せめて夕食だけでもおしゃべりしながら食べてほしかったからです。夫は、大量の抗がん剤治療、末梢血幹細胞移植と激しい苦痛を伴う治療を立て続けに受けました。「うちに帰るためだから」と泣き言一つ言わないで頑張っていました。痛みがひどく眠れない日も続きましたが、取り乱すことなく、静かに痛みと闘っていました。亡くなった後は葬儀などをこなさなければなりませんでした。でも、状況が落ち着きだすと、心が平静ではいられなくなりました。治療中は「支えなければ」という思いが先に立って、心が置き去りになっていたと思います。自分の気持を話せば、「いつまでも泣いていたらダメ」「成仏できない」と誰からも言われてしまい、何も言えなくなります。患者の家族は悲しみを隠して生きていかなければなりません。家族にも心のケアは必要だと思います。愛知県 水口和枝 50歳。 ●つらい気持、打ち明けた 6年前に食道がんと診断され、手術を受けました。手術後、流動食をとれるようになった頃に腸閉塞になり、再手術になりました。それから、つらい日がたくさんありました。今となってはどうしてそんなことを考えたのだろうと思いますが、当時は「この年でがんになって、もう生きていてもしょうがない」と思いました。気持がどんどん落ち込み、夜も寝られず、見回りの看護師さんの手を握って、つらい気持を打ち明けて泣きました。看護師さんが医師に進言してくださり、診療内科の診察を手配してもらいました。薬を飲んだら、少しずつ前向きになって治療を受けることができました。やはり、患者にとって精神的なケアは大切だと思います。今も診療内科に通い、ヘルパーさんの手を借りて、91歳の夫の世話をしながら暮らしています。大阪府 筵井宏子 83歳。 (4月5日 朝日新聞 患者を生きる 読者編2より)