千葉県に住む中沢幸平さん(74)は半年に一度、胃の内視鏡検査を受けている。定期的な検査のおかげで「生かせてもらっている」と感じている。胃がんが最初に見つかったのは、58歳だった2001年夏。公務員をしていたころだった。職場の健康診断で初めて胃の内視鏡検査を受けてみたら、数週間後、総合病院に呼ばれた。「胃から取った細胞を調べた結果、早期のがんが見つかりました。胃を3分の2ほど、手術で切除するかもしれません」。突然の宣告に、中沢さんは信じられない思いだった。体調に問題はなく、食欲もあった。胃に痛みや違和感もなかった。東京都中央区の国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院を紹介され、9月に訪ねた。内視鏡科の医師は、紹介状に同封されていた胃の写真を見て、「この程度のがんならば、内視鏡で取れるかもしれません。内視鏡でできれば入院は1週間くらいです」と話した。改めて内視鏡科の小田一郎医師による内視鏡検査を受けた。小田さんから「ごく早期の胃がんなので、内視鏡での切除が可能です」と説明された。ただ、最初に見つかった胃の出口付近の27ミリのがんのほかに、入口近くにも3ミリのがんがあるということだった。3週間後、胃の粘膜部分を生理食塩水で浮かびあがらせて、内視鏡の先から出した電気メスでがんを切り取る治療を受けた。この方法は、リンパ節に転移がなく、がんが胃の粘膜内にとどまる早期のがんが対象となる。約1時間で終わった。その後、胃が痛むことも、気分が悪くなることもなかった。1週間ほどで退院。検査で、がんは完全に取れていることが確認された。2003年、検査で胃潰瘍が見つかった。胃にピロリ菌がいることもわかった。ピロリ菌は胃にすむ細菌で、中高年者は感染している割合が高い。「胃潰瘍のだけでなく、胃がんの予防につながる効果も期待できるので、除菌しませんか」。小田さんから提案された。(1月3日 朝日新聞 患者を生きる ピロリ菌より)