子宮体がんが見つかった原千晶さん(41)は2010年1月、子宮を摘出する手術を受けた。リンパ節にも転移しており、手術後に抗がん剤の治療を始めた。2種類の抗がん剤の点滴を、3週間ごとに6回受けた。初回の点滴から約3週間後、頭皮がピリピリと張る感じがした。浴室でお湯をかけた瞬間、髪の毛が一気に抜けた。抗がん剤治療を重ねるたび、異なる副作用が出た。体に電気を流されているようなしびれ。ひどい便秘になったかと思えば下痢になる。よく眠れない。周囲に伝えづらい不快な感覚に苦しんだ。「がん患者になったんだな」。抗がん剤治療を受け、始めて実感した。そんな中でも、テレビの通販番組の仕事を受けた。かつらをかぶり、つけまつげをしてカメラの前に立つと、「気持がシャキっとした」。病気のことを忘れることができた。体力的にはきつかったが、精神的な支えになった。5月半ば、抗がん剤治療を終えた。その年の10月、ずっと支えてくれた恋人と結婚。がんで闘病していた事実とともに、公表した。原さんのブログには、がんの闘病を経験した女性たちから、コメントが書き込まれるようになった。それが縁で2011年7月、主に婦人科系のがん患者による「よつばの会」と立ち上げた。治療のことだけでなく、身近な話からほかでは言いづらい悩みまで共有できる場だ。自分にとっても力になった。2013年には、女性誌での連載をまとめた本を出版。闘病の記録だけでなく、心構え、治療と仕事の話、治療後の運動など、現実的な内容を盛り込むようにした。今年、治療終了から5年がたつ。経過観察のために病院に行く回数も減る。だが、また再発・転移するかもしれない。その覚悟はいつも持っている。一方で、子どもを産みたいという願いが摘み取られ、「なぜ私なの」という気持にとらわれることは今もある。二度のがん闘病を経験した30代。体のサインから目を背け、向き合おうとしなかった。「何でも人のせいにしていたのだと思う。自分の人生に責任を持ち、腹を据えて生きていこう」。闘病を経験して得たその思いが、今の生き方を支えている。(5月1日 朝日新聞 患者を生きる 原千晶の願いより)