「においでわかる。もう手遅れかもしれんぜ」 無免許の天才外科医ブラック・ジャックを描いた手塚治虫の漫画の一コマだ。においを実際に診察に役立てようという試みがある。並んで置かれた人の息が入った五つの袋。真っ黒なメスのラブラドルレトリバー、マリーンがかいで回り、一つの前に止まった。千葉県南房総市のセントシュガー犬舎で行われた呼気でがんを見つける実験だ。呼気は福岡歯科大医科歯科総合病院の外科医、園田英人さん(39)が提供した。165人分の実験でマリーンは90%を超える確率でがん患者の呼気を当てた。園田さんは昨年10月の学会で成果を発表。今、論文にまとめている。がんを専門にし10年。数百人の患者を診た。いつからか独特のにおいを感じるようになった。ほんのかすかな、海を思わせるにおい。調べると、海外では犬の鼻を使ったがんのにおいの研究事例があった。日本でも「がん探知犬」として訓練を受けるマリーンがいると知り、協力を申し出た。マリーンの能力を証明し、データを蓄積すれば、におい物質を特定できる。患者に負担の少ないがん検診ができるようになる。(朝日新聞)