兵庫県内の会社役員、豊秀之さん(47)は2008年8月に直腸がんが見つかり、手術を受けた。がんと一緒に腸を切除することで、人工肛門を作る必要があるといわれた。人工肛門を作らずに手術ができる病院を探して回り、4カ所目で手術を受けた。しかし、どの病院も、性機能については教えてくれなかった。手術で勃起神経を傷つけ、性機能に影響が出る可能性があると知ったのは手術の直前だった。豊さんは「がん患者には死への恐怖心があり、性機能まで考える余裕はないかもしれない。しかし、大事なこと。医師も患者にしっかり伝えてほしい」と話す。手術後、中途半端にしか勃起せず、射精もできなくなった。性行為への執着も薄まった。「その代わり、気持ちのふれあいが大事だと思うようになった」 手術後に麻酔から覚め、強い寒気に襲われた豊さんを、妻と娘が腕をまわして温めてくれた。2人の体温に涙が出た。「セックスはできなくても、妻との心のふれあいを感じられる。心のないセックスをしている人よりも充実している気がする」。(朝日新聞)