大手総合商社に勤め、国内外を飛び回ってきた。接待で夕食が2度なんてこともざら。会社の検診で胃潰瘍の痕が見つかっても、商社マンの勲章くらいに思っていた。50歳になって赴任したニューヨークでは、胃カメラの検査を毎年受けた。5年後に帰国してからも、胃の検査は欠かさなかった。60歳を前に、胃がんの一因になるというピロリ菌も除菌した。一安心だと思っていた。ただ一昨年だけ、多忙のため検診をさぼっていた。人間ドックの休憩室から診察室に戻ると、医師が写真を示しながら言った。「ここがちょっと気になりますね」。胃の内壁が、複雑な形で盛り上がっているのが見えた。「悪性腫瘍ですか」と尋ねると「その可能性が、かなりあると思います」。採取した細胞の検査結果が1週間後にわかる、という。
(4月16日 朝日新聞 患者を生きる 消化器 胃がん より)