山に囲まれたホテルに泊まり、森の中を歩いたり、温泉に入ったりした。懐かしさに胸が熱くなった。思い出深い、こうした旅ももう、できなくなるのか。しかし、それは思い込みだと、後から知ることになる。「死ぬんでしょう?」。医師に思いをぶつけると、「そんなことはない」と医師は言った。2009年8月、診断された大学病院ではなく、東京・築地の国立がん研究センター中央病院で手術を受けた。それぞれから治療法を聞き、家族とも相談して選んだ。がんは進行し、リンパ節への転移が疑われていた。開腹し、がんのある腸は切除する、という。さらに「がんは肛門を閉める筋肉に食い込んでいて、肛門を残すことは難しい」と、がん研究センター中央病院の医師から伝えられた。直腸を切除後、人工的に便の出口をつくる。出口に袋をつけて便はそこにため、たまったらトイレに流す。人工肛門「ストーマ」の仕組みも同時に説明された。不安はあったが、「入浴や外出、旅行などはほぼ今までどおりにできる」と聞き、少しほっとした。(1月21日 朝日新聞 患者を生きる ストーマ より)