乳がんで左胸を全摘した東京都の女性(61)は2009年秋、再発を防ぐ目的で1日1錠のホルモン剤を飲み始めた。ホルモン療法はホルモンバランスが乱れて、一時的に副作用が出ることがある。女性は抗がん剤治療から続いて、様々な症状に悩まされた。手足にピリピリとした痛みが走り、体がだるい。おりものの量が増えた。下着パタンナーの仕事には意欲がわかず、決まった作業をこなすのが精一杯になった。翌年、「たまには受けたら」と夫を健康診断に誘った。すると、夫に進行の早い肺がんが見つかった。約2年後、ホスピスでみとった。64歳だった。自身の病気への不安と夫の死。沈みがちだった女性は2014年、ホルモン療法で通院する聖路加国際病院(東京都中央区)で、主治医の山内英子さん(52)から乳がん体験者の減量プログラムに誘われた。乳がんは太っていると再発リスクが上がるため、1カ月間、週1回集まって運動や栄養指導を受けるという。女性は血液検査で肝機能の数値が悪化し、別の医師からも運動を勧められていた。プログラムでは、ほかの参加者と話しながら、手術後に肩が凝り固まるつらさや、再発の不安を共有できた。配られたDVDを見ながら、家でも体を動かした。運動が習慣になり、プログラム終了後も週3回ジムに通う。体重は半年間で約6キロ減り、だるさはなくなった。血液検査の数値も改善した。「自分から動かなければ変らないんだ」。再発への不安には、「小さな芽を摘んでいこう」と思えるようになった。下着パタンナーとしては「患者が考えた患者のためのブラ」を企画した。手術後、皮膚が敏感になったわきの辺りにブラジャーが当たって痛かった。どんな構造や素材なら痛くないか、自分でつけて試しながら試作品を仕上げた。術式や治療法の違いによる要望を知りたくて、患者たちにアンケートも試みた。商品化には金銭面や資材調達、メーカーとの契約など課題は多いが、あきらめてはいない。「毎日身につけるものだからこそ、気に入ったものがあればうれしいはず。喜んでもらえるお手伝いがしたい」。(7月24日 朝日新聞 患者を生きる 乳房の切除より)