前立腺の肥大を検査で指摘された千葉県流山市の荒井治明さん(73)は2011年2月ごろから、尿の出が悪いことに悩むようになった。「尿が細くなって、力を入れてもいっぺんに出にくくなりました」。トイレに行ってもすっきりした気分にならず、再びトイレへ。尿の回数が増え、残尿感が気になるようになった。「やっぱり前立腺の肥大が進行しているのかな」。不安な日々を過ごすようになった。尿の出が悪くなったのと同じ頃、便秘の症状も出るようになった。東葛病院(千葉県流山市)で、便秘薬を処方され、飲み始めた。血液中のPSA(前立腺特異抗原)の値はさらに上昇し、2012年10月には10.46になった。前立腺肥大症の治療薬を処方されて飲んだが、PSAの値は6を超す状態が続いた。がんの可能性がさらに高まり、2014年8月下旬、東葛病院に1泊2日入院して、前立腺の組織を調べる検査を受けることになった。下半身の麻酔をし、仰向けになって両足を高く上げた。その状態で、前立腺に針を計16カ所差し込んで組織を採取した。麻酔のおかげで痛みは感じなかったが、組織を取る器具の音は聞こえた。「針で組織を取るたびにバチンという音が響いた。あまり気持のよいものではありませんね」。検査の結果、前立腺の16カ所から採取した組織のうち、3カ所からがんが見つかった。事前のMRI検査で、白く写っていた場所だった。「やっぱり、がんでした」。泌尿器科の小澤雅史科長(48)は、栗の実のような前立腺のイラストをボールペンで描きながら、がん細胞が見つかった位置を荒井さんに説明した。がんになったのは初めてではない。この年の1月、再発した胃がんの切除手術を受けたばかりで、早期の発見と治療の大切さが身にしみていた。荒井さんは小澤さんに強い希望を伝えた。「がんと分かった以上は、一刻も早く治療を受けたい」。(9月9日 朝日新聞 患者を生きる 前立腺の手術より)