奈良県の穐鹿恭悦さん(68)は以前から右の脇腹がキリキリ痛むのが気になっていた。会社員だった10年前、2005年秋のことだ。「筋肉痛かな」とも思ったが、どうもおかしい。地元の病院で、腹部のエコー検査を受けることにした。結果を聞く予定日の数日前、病院から電話がかかってきた。「予定より早く来てもらえますか」。不安を抱えつつ受診をすると、医師から言われた。「おなかのあたりのリンパ節が腫れています」。「リンパ節の腫れ」と言われても、ピンと来なかった。脇腹の痛みとは関係ないが、PET検査で詳しく調べる必要があるという。PETが、がんを調べる時に使う検査であることは知っていた。「ひょっとしたら・・・」という思いがよぎった。12月初め、結果を聞きに行くと、医師から「悪性リンパ腫と思われます」と告げられた。聞いたこともない病名だった。血液の悪性腫瘍の一つで、診断のためにはリンパ節などの一部を切除して病理検査する「生検」を受ける必要があるという。「こんない大きくなっているのに、分かりませんでしたか」。紹介先の大学病院で、医師はリンパ節のある首や脇、足の付け根を触りながらそう言った。自分では気づかなかった。生検では左首の付け根のリンパ節を調べることになった。局所麻酔で意識があるまま、首もとを切られるのは恐ろしかった。12月下旬、生検の結果が出た。悪性リンパ腫の中でも「ろほう性リンパ腫」というタイプと診断された。「大変なことになってしまった」。診断結果を聞いて動揺した。悪性リンパ腫は低・中・高の3段階の悪性度に分けられる。悪性度が高いと月単位で進行するが、穐鹿さんが診断された「ろほう性リンパ種」は、年単位でゆっくり進行する「低悪性度」だった。「点滴で行う抗がん剤治療で効果があります」。医師の説明を聞くうちに、「治る病気なんだ」と感じ、気持の落ち着きを取り戻した。(9月22日 朝日新聞 患者を生きる 悪性リンパ腫より)