2006年に悪性リンパ腫の治療を終えた奈良県の穐鹿恭悦さん(68)は、経過観察のために病院に通った。1~2カ月後に1度、血液検査で腫瘍マーカーを確認し、年1回ほどPET検査を受けた。「異変がみられます」。そう告げられたのは、5年後の2011年の年末だった。腫瘍マーカーの値が上がり、腹部のリンパ節が少し大きくなっているようだという。「病気が再発したのか」「治療が本当に必要なのか」と聞いても、納得のいく説明は得られなかった。自分の置かれた状況がよく分からず、不安になった。「ほかの先生にも意見を聞いてみたい」と医師に伝え、これまでのCTやPET画像データをもらった。ちょうどそのころ、長女(43)が悪性リンパ腫に関する新聞記事を見つけてくれた。その記事に名前が出ていた近畿大医学部付属病院(大阪府大阪狭山市)の血液・膠原病内科の辰巳陽一教授(55)に、セカンドオピニオンを聞きにいくことにした。年が明けた2012年1月末、穐鹿さんが持参した画像を見て、辰巳さんは「確かに正常とは言い難いが、今すぐ慌てて治療する必要はないでしょう」と説明した。穐鹿さんは、年単位でゆっくり進行する、ろほう性リンパ種というタイプで、無症状であれば、経過観察が選択されることも多い。「少しでも正常でなかったら気が済まない、という方なた、治療したほうがいい。ですが、やらなかったら、命にかかわる、という段階ではありません」気になるなら、という程度であるなら、吐き気で食事も満足にできなくなった、あの治療の苦しみを味わいたくはない。すぐに治療はせず、辰巳さんの元でそれまでと同じく経過観察を続けることにした。治療の必要性は、それまでの経過と現状から、総合的に判断される。「治療を延ばさない方が良い段階になったら、言ってほしい」と頼んである。将来、必要となった場合は、治療を受ける覚悟をしている。「がんの治療方法は10年後にはもっと進歩するだろうし、30年たてば新しい世界が開けるはず。それまで、自然体で長生きしたい」。(9月25日 朝日新聞 患者を生きる 悪性リンパ腫より)