宮崎県日向市に住む女性(21)が体の異変に気付いてのは、高校1年生だった2010年12月、体育の授業で持久走をしたときだった。400メートルトラックを4分の1ほど走っただけで、肩で息をするほど苦しくなった。「運動不足でしょ」。女性の母親(48)は当初、気にしていなかった。中学ではソフトボール部に所属していたが、高校入学後はあまり体を動かしていなかった。しかし、2学期の終業式直前の12月下旬になると、校内で友人と並んで歩くだけでひどく疲れ、まるで全力疾走しているように感じた。自宅の階段をはうようにして上る娘の姿に、「普通の体じゃない」と母も不安を抱いた。自宅近くの内科クリニックを受診し、血液検査を受けた。翌2011年1月4日、クリニックから電話がかかってきた。「普通の貧血ではないようです。県立延岡病院へ行ってください」。翌日、紹介状を持って受診した。女性が別室で輸血を受けている間に、内科医長の外山孝典さん(51)は母親に告げた。「ほぼ間違いなく白血病です」。白血病は血液のがんの一つ。白血病細胞(がん細胞)が異常に増えて正常な血液細胞が減ることで、免疫力が落ち、発熱やだるさなどが起こる。血液検査の結果、女性は血液中に多くの白血病細胞が見つかり、逆に、血小板の数は健康な人の10分の1ほどだった。「誰かとカルテを間違えているのでは?」。母親は、外山さんのパソコン画面をのぞき込んだ。しかし、画面上には娘の名前が表示されていた。駆けつけた父親(53)と3人で女性にどう説明するか相談した。外山さんは「本人にしっかり治そうという気持を持ってもらうためにも、説明しましょう」と提案。そのまま入院することになった女性に、「白血病は、骨髄にある白血休や赤血球などの元になる造血幹細胞ががんになる病気です」と伝えた。「私はどうなっちゃうんだろう」。女性は不安に駆られたが、外山さんが最後に言った言葉を胸に刻むことにした。「今は白血病は治る病気だよ。一緒にがんばろう」。(10月6日 朝日新聞 患者を生きる 白血病より)