舌がんは3対2の比率で女性より男性に多く、50~70代で多発する。ただ、20~30代での発病も珍しくない。飲酒や喫煙、さらに義歯による舌表面への刺激でもリスクが高まると考えられている。今回の連載では、抗がん剤の舌動脈への注射と放射線を組み合わせた「動注化学放射線療法」を紹介した。だが、現在の標準治療の中心は外科手術による腫瘍の摘出だ。連載に登場した東京都の主婦(47)も、最初に受診した大学病院では手術を勧められた。国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)が2001年までに行った363件の初回治療例の分析では、手術だけでの治療が92%を占める。腕、腹、足などの皮膚と筋肉を使って舌を再建する技術の進歩も、手術を選択しやすくしている。この10年は術後に抗がん剤治療や放射線治療を追加することが多くなってきている。手術と動注化学放射線療法の療法を扱っている国債医療福祉大学三田病院(東京都港区)頭頚部腫瘍センターの多田雄一郎准教授によると、同病院でも9割以上の舌がんは外科手術で治療されている。多田さんは「舌の3分の2以上を切除する必要があり、頚部リンパ節転移が明らかでない段階では、動注化学放射線療法が視野に入ってくる」と話す。普及が進まない理由について、1992年にこの治療法を開発した伊勢赤十字病院(三重県伊勢市)放射線科の不破信和部長は、①外科手術に比べまだ歴史が浅く改善すべき点が多い②舌がんの治療は外科医が担当することが多く、舌がんに習熟した放射線治療医が少ない③耳の近くを切開して舌動脈に細いカテーテルを挿入する手術など技術が必要、の3点を挙げる。一方、治療後のしゃべる機能の回復ぶりについては順調な患者が多いと指摘する外科医や放射線医もいる。陽子線治療には公的医療保険が適用されないが、厚生労働省から「先進医療」に認められており、入院費などは保険でカバーされる。ただ、南東北がん陽子線治療センターの中村達也・副センター長は「陽子線を使わなくても、X線だけでも動注化学放射線療法を行うことは可能」と話している。(10月24日 朝日新聞 患者を生きる 舌を残したい 情報編より)