人体に無害な光(近赤外線)を当ててがん細胞を壊す新しい治療法を米国立保健研究所(NIH)の小林久隆・主任研究員がが開発し、患者で効き目を調べる治験(臨床試験)を近く始める。光を受けると熱を出す特殊な化学物質をがん細胞の表面に結び付け、がんだけを熱で狙い撃ちする。この治療法は「光線免疫療法」。小林さんらが2011年、マウス実験だと8割でがんが完治したと発表。副作用が少ない新治療法になると注目を集め、オバマ大統領が翌年の一般教書演説で取り上げた。今年4月末、米食品医薬品局(FDA)が治験を許可。通常、動物実験から治験開始まで早くても5年以上かかるとされており、今回は異例の早さだという。米製薬ベンチャーと組んで準備を進め、約10億円の資金も確保した。治験ではまず、近赤外線を受けて発熱する化学物質を、特定のがん細胞に結びつくたんぱく質(抗体)に結合させた薬を患者に注射する。最初は、首や顔にできる頭頚部がんの患者10人前後で、近赤外線を当てずに副作用などがないことを確認。その後、患者20人前後で、近赤外線を当てて効果を調べる。3~4年後にがん治療薬として米国での承認を目指す。日本でも約2年後、安全性が確認された後の治験ができないか検討している。抗体はさまざまな種類のがんで開発が進んでいる。近赤外線はテレビのリモコンなどにも使われる無害な光で、当てる強さを調整することで、正常な細胞は傷付けず、がん細胞だけをたたくよう制御できる。将来的には、膵臓がんや肺がん、悪性黒色腫など悪化すると治療が難しいがんで、手術の際に患部に照射し、取り残したがん細胞を死滅させて再発を防ぐ治療法も検討しているという。(5月6日 朝日新聞)