抗がん剤の治療を受けていた保育士の女性(39)が新たに期待をかけたのは、「クリゾチニブ」と呼ばれる薬だった。「EML4-ALK融合遺伝子」の変異が原因で起こる肺がんに効果が期待される新しい分子標的薬だ。クリゾチニブは、東京大医学部の間野博行教授が肺がんの原因となる融合遺伝子を発見したことで誕生した。自治医科大教授だった2007年に論文発表され、この遺伝子変異によって活性化された部分をターゲットにした薬の開発が進んだ。2011年8月に米国で、2012年8月に日本で承認された。女性がクリゾチニブを知った2011年夏は、日本では「治験」の段階だった。治験とは、動物実験で安全性や有効性が検討された後、法律上の承認を得るために実施される臨床試験のことだ。治験を承認していたがん研有明病院(東京都江東区)で女性が検査を受けると、融合遺伝子が陽性を示した。女性は治験に参加できることになった。治験では、薬に有効性を厳密に確かめるため、効果の内偽薬(プラセボ)を本人や医師に分からないようにして割り当てることもあるが、このときは偽薬を使わない方式だった。(3月5日 朝日新聞 患者を生きる 肺がん より)