新しい肺がんの治療薬クリゾチニブの治験に参加した保育士の女性(39)は、病気になる前の生活に少しづつ戻っていった。以前の抗がん剤治療の副作用で抜けた髪の毛も戻った。2012年、2年ぶりに復職。家族での旅行も楽しめるまでに回復した。「復職だけでなく、何より家族と以前のような生活ができるのうれしかったです」。クリゾチニブは、EML4-ALK融合遺伝子の変異が原因で起こる肺がんに効果が期待される分子標的薬。女性はこのタイプの肺がんだった。服薬後1、2時間は吐き気を催したが、これまでより体の負担は少なく感じたという。女性も参加した治療を経て、2012年3月、国内で正式に承認され、公的医療保険の対象になった。その後も服薬を続けた。顔色もよく食欲もあり、体重はむしろ増えていた。病気を知っている知人らに「本当にがん?」と驚かれることも多かった。しかし、2013年1月、異変があった。3週間に1度通っていた定期検査で、左前頭葉にひとつの悪性腫瘍が見つかった。肺がんが脳に転移していた。(3月6日 朝日新聞 患者を生きる 肺がん より)