「後腹膜平滑筋肉腫」というまれながんになった静岡市の女性(54)は、再発後、東京の国立がん研究センター中央病院で新薬の治験を3年8カ月受けた。症状は安定していたが、2012年5月、薬の開発は中断され、薬は飲めなくなった。女性は、肉腫の研究をしている大阪府立成人病センターの高橋克仁医師に相談した。2012年中には、悪性の軟部肉腫を対象にした始めての分子標的薬、パゾパニブ(商品名ヴォトリエント)が発売される予定だった。「それまでなんとか抑えよう」。ほかの治療を探した。高橋さんの勧めで新たに参加したのは、白血病の抗がん剤の適応を広げるための治験だった。女性は東京郊外の病院に入院したが、薬を飲み始めてから1カ月後の8月、腹部に腫瘍の再発が見つかり、参加は終了となった。あとは新薬を待つしかない。9月、再発時の手術を担当した大野烈士医師のいる淵野辺総合病院(神奈川県相模原市)で、3度目の手術を受けた。小腸の周りにできた5センチの腫瘍を手術で切除した。パゾパニブが発売された11月、高橋さんの診察を受けて薬を商法された。「何とか、生き延びた」。そんな気持だった。1日1回服用する日々が始まった。だが、肺に転移した腫瘍が徐々に大きくなり、肺炎を併発。呼吸困難になった。腹部と肝臓にも新たな腫瘍が見つかった。2014年の夏には、肺と腹部、肝臓の合わせて4か所を一度に切除する大手術を受けた。現在は小康状態だ。パゾパニブがどれだけ効いているのか、効果がいつまで続くのかは、分からない。だがそれでも普段は症状はなく「病人に見えない」と言われるとうれしい。これまで、様々な条件や幸運が重なったと女性は振り返る。自宅が東京や大阪に通える距離にあったこと。子どもがおらず、治療に専念できたこと。そして何より、治療をしてくれる医師に出会え、治験によって命をつなぐことができたこと・・・・。そのすべてに感謝して、一日一日を過ごしている。(3月28日 朝日新聞 患者を生きる 幻の薬 より)