大塚範一さん(66)は、朝の情報番組「めざましテレビ」(フジテレビ系)では、様々な情報を扱うキャスターだった。しかし、入院中はあえて、急性リンパ性白血病に関する情報を求めなかった。病気に詳しい知人や白血病を経験した視聴者らが、医学情報や病院の評判を伝えてくれることもあった。でも、総合的には耳を貸さなかった。「赤ワインをたくさん飲んで免疫力を高めるポリフェノールをとりなさい」「がん細胞を防ぐ有機トマトのすばらしいものがあるから、よかったら届けます」。そんなアドバイスも聞き流した。「やっぱり、患者は医学的には門外漢であり、門外漢であるべきなんです。医師のいうことだけをしっかり守ろう、いい患者でいようとだけ考えました」。それが、大塚さんなりの病気との向き合い方だった。健康法や体験談などから、ひとつだけ「採用」した助言があるとすれば、「気持を明るく持ちなさい」ということだけだった。原因も予防法も未知の部分が多い白血病について、知れば知るほど気がめいり、明るく過ごすことができなくなるのではないか。「情報が、患者の闘う力をそぐこともあると思うんです」。セカンドオピニオンも求めなかった。大塚さんは「病気にも、縁や出会いがあるんです」と話す。首のリンパ節に小さなしこりがる段階で病気に気づき、体力が残っていた。最初に訪れたクリニックに、大学病院から医師が週1回診察に来ていて、その医師に診断してもらえた。白血病では日本でトップレベルとされる大学病院に入院できた。そしてしこりの「発見」から10日ほどで抗がん剤治療が始まった。「入院直後、知人の元プロ野球監督の星野仙一さんから、現代医学を信じてがんばれ、というメールをもらったんです。つらいとき、その言葉をよく思い出しました」と大塚さんは振り返る。2012年10月、11カ月に及ぶ抗がん剤治療を終えて退院した。しかし、5カ月後の2013年3月、定期検査で白血病の再発が分かった。テレビ復帰に向け、着々と準備を進めている時期だった。(4月9日 朝日新聞 患者を生きる 大塚範一の闘いより)