進行した胃がんが見つかり、2010年5月に胃の全摘手術を受けた広島県の女性(74)は手術後、極端に食が細くなった。普通なら退院のめどとなる2週間がたっても、食べられるのは「五分かゆ」がやっとだった。退院したのは手術から3週間たった6月上旬。食欲が出ず、からしなど刺激のあるものや天ぷらなど油の多いものは食べられない。市販のパンも食べられなかった。「においが気になったから」という。パンが食べたいときはお店で焼いた菓子パンを買ってきた。それも一度には食べられなかった。菓子やスナック類をいつも持ち歩き、朝食と昼食、昼食と夕食の間に少しずつ食べた。2011年の夏。農作業をして雨に当たったあと、胸から脇腹にかけて痛みを感じた。4、5日たっても治らず、女性は近くの病院に行った。熱は39度もあり、肺炎を起こしていた。結局9日間入院した。「大手術の後は体が弱っているから、お決まりのコース」と医師から聞いた。「がんでは痛みを感じたことがなかったので、関係があると全然思わなかったんです」。それからは、雨が降ってきたらすぐ家に入るなど気をつけるようになった。一方、主治医の二宮基樹・広島市民病院副院長(64)は、「女性のがんは再発の可能性が低くない」と心配していた。手術で取ったリンパ節を包む脂肪組織の中からも、がん細胞が見つかっていたからだ。しかし、3カ月ごと、半年ごとの検査でも、心配された再発は、見つからなかった。昨年7月、女性は広島市内から夫の故郷・安芸高田市に引っ越した。自宅は、約6千本の桜で有名なダム湖のほとりにある。手術から5年目を迎え、花見を楽しみにしていた今年2月。今度は、6年ぶりに胃カメラの検査を受けた女性の夫(75)に、早期の胃がんが見つかった。「まさか主人まで。自分の時よりショックでした」。女性の夫は4月、広島市民病院で胃の3分の2を取る手術を受けた。経過は順調で夫は退院した日に「肉が食べたい」と言った。「私も胃がんで、とても苦労しているのをそばでずっと見ていたので、『自分は大したことない』と思えたんじゃないでしょうか」。(7月2日 朝日新聞 患者を生きる より)