大腸がんで亡くなる人は年間4万人を超し、がんの部位別の死亡者数(2013年)では肺、胃に次いで3番目に多い。大腸がんが、血液の流れに乗って最も転移しやすい臓器は肝機能で、次いで肺が多い。がんは、ほかの臓器に転移すると手術では治療しにくいイメージが強い。しかし、連載で紹介した斉藤信彦さん(68)のように、大腸がんの場合は近年、他の臓器に転移しても手術で治せるケースが増えている。特に肝臓への転移では、手術中に超音波を使って残すべき血管の位置を確認しながらミリ単位で腫瘍とその周囲だけを切り取る手術が導入され、手術を受けられる患者の幅が広がった。がん研有明病院(東京都江東区)の斉浦明夫・肝胆膵外科部長(48)によると、同病院で大腸がんの肝転移が見つかった患者のうち、当初から手術が可能な人は50~60%。転移が3個以下で手術しやすいと判断された場合、同病院ではまず肝臓の切除手術を行い、その後、抗がん剤治療をすることが多い。大腸のがん本体の状態にもよるが、転移が4個以上で再発しやすいと判断された場合、抗がん剤治療をした上で肝臓の切除をし、手術後にも再び抗がん剤治療をするケースが多いという。肝臓への転移は、数が多いと手術をしにくいが、10個以上あっても手術できるケースがある。一方、転移の数は少なくても、腫瘍が血管を大きく巻き込んでいる場合などは、手術が難しい。また、肝臓以外の複数の臓器や腹膜などに転移が見つかった場合は、肝臓を切る出では治療効果が見込めず、化学療法の対象になる。肝臓には再生能力があるので、正常な組織を3割残すことができれば、ほぼ元通りの体積に戻る。当初は肝臓内に転移した腫瘍の数が多いなど、すぐに手術ができない人も、抗がん剤によって腫瘍が縮小し、手術可能になることがある。斉浦さんは「大腸がんの
肝転移は再発率が高い。しかし、再発しても切除できれば治せる可能性が高まる。たとえ肝転移が再発しても、あきらめずに治療を受けてほしい」と話す。(8月1日 朝日新聞 患者を生きる 転移と手術・情報編より)