肺がんの中でも「腺がん」は、男性で4割、女性で7割を占め、最も患者数が多い。患者の約半数は、がん組織を調べると、細胞の増殖に関わる「EGFR]というたんぱく質の遺伝子に変異が見られる。変異が起こる原因はわかっていない。EGFRの異常な働きを抑える分子標的薬のEGFR阻害剤には「ゲフィチニブ(販売名イレッサ)」や「エルロチニブ」、「アファチニブ」がある。いずれも進行して手術ができないか、再発した患者が処方の対象となる。従来の抗がん剤のような脱毛や白血球の減少に悩まされない代わりに、皮膚障害や下痢などの副作用が目立つ。皮膚障害は7~9割の人が経験する。EGFRはがん細胞だけでなく、細胞の増殖が活発な皮膚や爪、粘膜などにも多く、影響を受けやすいからだ。連載で紹介した渡辺久子さん(68)のように、薬を飲み始めて1~2週間後に目立つのが、顔や胸、背中などにできるニキビのような湿疹だ。かゆみを伴うこともある。治療には炎症を抑えるステロイド軟膏を使う。症状が重いと抗生物質を服用することもある。和歌山県立医科大学呼吸器内科・腫瘍内科の山本信之教授(53)は「EGFR阻害剤は、湿疹が出る人ほどよく効くとされている。湿疹で治療をあきらめるのではなく、継続できるようケアすることが大切だ」と話す。服用後6週間ほどすると、爪の生え際が赤くなって腫れる「爪囲炎」が起こりやすい。アファチニブを服用する人に特に多い。爪に力が加わると痛みが強くなり、歩きづらくなる。爪が食い込むのを避けるため、テーピングで皮膚を保護することが有効だ。国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科の堤田新医長(50)は「症状が出る前から、皮膚の潤いと清潔を保って予防することが、症状の軽減につながる」と話す。分子標的薬は初めは良く効いても、いずれがん細胞が耐性を持って再び症状は進行する。国内で治験が進む新しいEGFR阻害剤は、従来の薬剤に耐性ができた人にも効くと期待される。がん細胞にだけ効果を発揮する仕組みのため、皮膚などへの副作用も少ないとされる。(8月8日 朝日新聞 患者を生きる 副作用と向き合う 情報編より)