精巣(睾丸)には、男性ホルモンを分泌する機能と、精子をつくる機能がある。精巣がんにかかる割合は男性10万人あたり1人で、「希少がん」に該当する。主な症状は、片側の精巣が腫れたり、硬さが変化したりする。痛みを感じないことが多く、かなり進行してから気付くケースも少なくない。非常に進行が早く、転移しやすいとされる。発症のピークは、20代後半から30代にかけて。連載で紹介した神奈川県に住む会社員の男性(37)は、働き盛りで、幼い子どもがいる中で治療を受けた。治療は、がんが強く疑われる段階で、腫瘍のある側の精巣を摘出する。取り出した組織を調べてがんかどうかを確定し、転移の有無や転移先の部位によって、その後の治療が選択される。神奈川県立がんセンター泌尿器科の岸田健部長(52)は「若い人に多い精巣がんの治療は、治癒をめざすだけでなく、将来の就職や結婚も視野に入れ、発病前と同じ生活に戻ってもらうことが大切」と指摘する。精巣がんの多くは抗がん剤がよく効き、転移があっても治ることが期待できる。ただ、筑波大病院腎泌尿器科の河合弘二講師(55)は「非常によく効く理由は、まだわかっていない」と話す。解明できれば、ほかのがんにも応用できる可能性があり、精巣がんの研究は世界的にも注目を集めているという。若い患者では、将来子どもを持つことを望んでいる場合が多い。抗がん剤治療を受けると無精子症になる恐れがあるため、希望者には事前に精子を採取し、必要になるときまで凍結保存する。横浜市立大付属市民総合医療センターの湯村寧・生殖医療センター泌尿器科部長(48)は「精子凍結をすることで、若い患者が将来を心配せず、心おきなく治療に専念してもらえる環境を整えることが重要だ」と語る。精子凍結が検討される病気には、精巣がんのほかに、白血病や悪性リンパ腫などがある。国際泌尿器科学会によると、凍結後に融解しや精子は、通常の精子と比べて、運動率が30~60%、受精率は70~75%に低下することが報告されている。(9月5日 朝日新聞 患者を生きる 精巣の摘出 情報編より)