前立腺は、栗の実のような形をした臓器で、男性の精液の一部を作る働きがある。前立腺がんは加齢とともに増え、特に65歳以上で目立つ。2011年に新たに診断された患者は全国推計で7万人を超え、男性のがんでは、胃がんに次いで多い。尿が出にくいといった症状で気付くこともあるが、自覚症状がないことも多い。人間ドックなどの血液検査でPSAの値が高いことがわかり、治療のきっかけになるケースもたくさんある。国立がん研究センター東病院の酒井康之医長(46)は「治療は選択肢が幅広く、主治医とよく相談して、自分に合った治療法を納得して選んで欲しい」と話す。連載で紹介した荒井治明さん(73)の場合、放射線治療なども検討することができたが、本人の希望で手術を選択した。手術の対象になるのは、がんが前立腺内にとどまり、おおむね75歳以下の人。ほかに重い病気があるなど全身状態が悪い場合は対象にならない。また、手術後には一時的に尿失禁が起こりやすく、神経を温存しない場合は勃起不全になるといった側面もある。ロボット手術や腹腔鏡手術は、開腹手術に比べて出血が少ないなどの利点がある。荒井さんが受けた手術支援ロボット「ダビンチ」による前立腺がんの手術は、2012年には保険適用になった。ダビンチは2014年度、国内で8千件以上の前立腺手術に使われた。放射線治療には、体の外から放射線を当てる「外照射法」と、小さなカプセル状にした放射性物質を体内に埋め込む「小線源治療」とがある。手術や手術に伴う尿失禁などの合併症を避けたい人に向いており、手術時の全身麻酔のリスクが高いと判断された人も対象となる。ただし、副作用として直腸炎などが起こることもある。このほか、前立腺がんを進行させる男性ホルモンを薬で抑える「ホルモン療法」や抗がん剤による「化学療法」も、病気の進行状態などに応じて選ばれる。すぐ治療をしなくても余命に影響がないと判断される場合などには、血液中のPSAの値を定期的に測定する{PSA監視療法」が選択されることもある。(9月12日 朝日新聞 患者を生きる 前立腺の手術 情報編より)