50歳を過ぎたことだし年に一度は健康チェックを受けよう・・・。秋田県湯沢市に住む元小学校教諭の近藤セツ子さん(60)は2008年2月、そんな気持で受けた人間ドックで異常を指摘された。CT検査をしたところ、両肺に囲まれた「縦隔」という部分に、腫瘍の疑いがあると指摘された。ただ、「良性の可能性がある」とも言われた。40代で甲状腺がんの手術を受けたが、その後は状態が安定していた。以前、胆嚢にポリープが見つかったこともあるが、特に治療は必要なかった。そうした経緯もあり、今回もそれほど深刻に受け止めなかった。3月、自宅から車で30分ほどの横手市にある平鹿総合病院を受診した。甲状腺がんの再発の疑いも考慮され、CTなどの詳しい検査を受けた。後日、医師から結果を説明された。「胸腺腫の疑いがあります」。一瞬、頭が真っ白になった。「胸腺って何?どこにあるの?」。初めて聞く言葉だった。胸腺は縦隔の一部で、胸骨の裏側にある握りこぶしほどの器官。良性の場合もあり、診断と治療のため、手術を受けるよう勧められた。タイプによっては、手術後に放射線治療が必要になるという。「この先、どうなるんだろう」。病気へのイメージもわかず、漠然とした不安に駆られた。「悪いものがあるなら、とってもらうのが一番。手術をすれば、きっと大丈夫なんだ」。知識もなく、そう思うしかなかった。当時、小学校の特別支援学級の教師として、自閉症などの障害を抱えた子どもたちと向き合っていた。一人ひとりの個性や、その日の気分や状態に合わせて指導を組み立てる仕事を続けて約30年。どんなに経験をつんでも一筋縄ではいかない。難しくもあり、やりがいもあった。長く休めば周りに迷惑をかけると思ったが、やむを得ず3カ月の病気休暇をとることにした。仕事の整理や引継ぎに追われた。病気についてほとんど調べる余裕のないまま、手術の日を迎えた。患者数が極端に少ない「希少がん」との長い付き合いが、始まった。(11月3日 朝日新聞 患者を生きる 胸腺腫より)