大腸に大量のポリープができる「家族性大腸腺腫症」(FAP)は、がん抑制遺伝子の「APC]に、生まれつき変異のある人がなる病気だ。国内の患者数は7千人ほど推定されている。この変異は、親から子に2分の1の確率で遺伝する。また、両親ともに遺伝子が正常なケースでも、まれに受精卵の段階でこの変異が起きることがある。APC遺伝子は一つの細胞に2個ずつあり、両方が変異すると、小さなポリープができる。このポリープが大きくなると一部ががん化する。一つの細胞で両方のAPC遺伝子が変異する確率は低く、一般の人では40、50代で大腸に1,2個ポリープができる程度だ。しかし、家族性大腸腺腫症の患者はすべての細胞で初めからAPC遺伝子が1個変異しており、残り1個の遺伝子に変異が起こるだけでポリープの原因になる。このため、40代半ばから大腸などに大量のポリープができる。大腸に100個以上のポリープがあることがこの病気の診断の目安で、遺伝子検査で確かめる。患者は十二指腸や胃にもポリープやがんができやすい。治療の基本は、大腸を取って小腸を肛門につなげる手術だ。症状によっては直腸を残す場合もあるが、直腸にもがんができやすい。大腸の切除手術後、小腸の一部が大腸の役割を果たすようになると、小腸にがんができる危険が高まるとされる。連載で紹介した大阪府の会社員の男性(30)は、石川消化器内科(大阪市)の石川秀樹院長(55)から大腸を取らずに内視鏡でポリープを取り続ける治療を受けている。この治療法は数カ月から1年に1回程度、定期的に受けなければならない。台帳を取らないので、普通の人とほぼ同じように生活できる利点がある。石川さんが特任教授を兼務している京都府立医科大や、国立がん研究センターが中心となって、患者220人を対象に、この治療法が大腸がんを防ぐ効果があるか調べる臨床試験を進めている。治療期間が長期にわたるため、患者らは治療費が助成される難病指定を厚生労働省に求めている。(10月31日 朝日新聞 患者を生きる ポリープとの闘い 情報編より)