肺がんの手術から2年あまりたった2011年9月。愛知県に住む会社員の男性(58)は、脳への転移を告げられた。通院先の愛知医科大学病院(愛知県長久手市)で、「サイバーナイフ」を用いた放射線治療を選択肢の一つとして示された。病院から帰宅すると、インターネットで「サイバーナイフ」について調べた。「特定部分にだけ放射線を当てがん細胞を攻撃する定位放射線治療のひとつ。周囲の正常な組織への悪影響を減らし、腫瘍に強く正確に照射できる」。そんな説明文をネット上で見つけた。脳腫瘍だけでなく、肺や肝臓のがんを治療できるのが特徴と書かれていた。「ナイフというから、電気マスのようなものでがんを切り取るのかと思ったわ」。妻(54)からそう言われた男性は、こんな返事をした。「なんだか、魔法のような治療法だな。説明を読んだだけで、治りそうな気分になってきた」。男性は数日後、河村敏紀特認教授(62)から詳しく説明された。放射線による治療には、頭部全体に照射する「全脳照射」という方法がある。ただ、正常な細胞にも放射線が当たるので、基本的に1回しかできない。これに対し、サイバーナイフは、腫瘍に集中した照射ができるという。「がん細胞を狙って当てるので、新たな病変が発生しても繰り返し照射し治療できます」。全脳照射かサイバーナイフか。治療方法は主要の数、大きさ、位置、年齢などを考慮して決められる。この10年ほどの日本放射線腫瘍学会などの報告によると、サイバーナイフは比較的腫瘍の数が少ない患者に対して選択される。男性の腫瘍は6カ所。今後も発生する可能性があった。河村さんは「サイバーナイフをお勧めします」と言った。男性は、紹介された総合青山病院(愛知県豊川市)で、サイバーナイフによる治療を受けることにした。約1週間後に受診すると、その日のうちに放射線を当てる時に使うプラシチック製の固定具を作製した。完成した仮面のような固定具を見た瞬間、「よし。やるぞ」と気力がわいてきた。(11月25日 朝日新聞 患者を生きる サイバーナイフより)