肺がんの脳への転移が見つかった愛知県の会社員の男性(58)は、2011年9月下旬から総合青山病院(愛知県豊川市)で、放射線照射装置の「サイバーナイフ」を使った治療を受けることになった。主治医の水松真一郎さん(50)は諭すように説明した。「サイバーナイフは病気を根治させるというより、現在の生活レベルを落とさないようにすると思ってくださいね」。治療の日、男性は頭に固定具をつけ、ベッドに横たわった。頭上を長さ2メートルほどのロボットアームが動く。いろいろな方向に動き回り、「カチッ」と停止すると「ジー、ジー」という音を立てた。天井のスピーカーから、「動かないでください」「いまから照射します」と放射線技師の指示が届いた。放射線を照射した頭部には、痛みも熱も感じない。「本当に放射線が出ているのかな?」。室内には、あらかじめリクエストしておいた中島みゆきの曲が流れた。「旅人のうた」「地上の星」・・・・。頭の中の腫瘍がどんどん小さくなっていく様子をイメージしながら歌声を聞いた。治療は、脳の腫瘍1カ所につき15~30分ほどかかる。男性の腫瘍は6カ所あり、初回の照射は3時間ほどで終わった。終了1カ月後のCT検査やMRI検査では、放射線を照射した腫瘍は画像でとらえられないほど縮小したり、黒くなって壊死したりしていることが確認された。ただ、3カ月ごとの定期検査で、新たに脳に転移した腫瘍が相次いで発見された。まず2012年1月に4カ所見つかり、再びサイバーナイフによる治療を受けた。その後も、脳に腫瘍が見つかるたびにサイバーナイフを使った放射線治療を受け、2013年2月までに計3回、15カ所にのぼった。「転移して、治療して。転移して、治療して。こんな繰り返し、いつまで続くんですかね」。男性は水松さんにそうこぼしたこともあった。それでも以前と同じように仕事をこなし、家族と一緒に暮らせている。「サイバーナイフのおかげで生かさせてもらっている」。治療を続けているうちに、そう実感するようになっていった。(11月26日 朝日新聞 患者を生きる サイバーナイフより)