2年前、大阪医科大で膀胱がんの温存療法を受けた奈良県の有川勝己さん(41)は最後の治療から約半年後の2013年10月、検査のため入院した。11月、結果を聞くために、病院をたずねた。主治医の東治人教授(52)から「結果は順調」と伝えられた。がんは見つからなかったという。半年後の検査も順調だったが、昨年7月、血尿が出た。膀胱鏡で、膀胱の中を調べて再発が疑われたため、入院。内視鏡で細胞を取って検査した。結果を聞きに行くと、東さんは「がん細胞はなかった。大丈夫」と一言。きつねにつままれたような気分だった。「本当に大丈夫ですか」と聞き返した。「なんで、ウソつかなあかんの」。診断は膀胱炎だった。今年4月、再び血尿が出た。だが、膀胱鏡などの検査結果は異常なし。「放射線治療などで膀胱が硬くなっているから、こういうこともある」と説明された。「自分はこんなにがんばっているのに、どうして」。再発かもしれないと思ったときはショックで、昔のように怒りに包まれそうになった。だが、以前とは違う。感情をコントロールするすべを覚えたからだ。退院後、人が変ったように穏かになった、とよく言われる。妻の由佳理さん(42)も「今まで『ありがとう』なんて言われたことはなかったんですが、よく言われるようになりました」という。イライラして日に3箱も吸っていたたばこは、「膀胱がんになる可能性を高める」と聞いてから、きっぱりとやめた。以前のようにたやすくカっとなって他人を怒鳴ることも影を潜めた。「自分が入院して不在の間も、業績を下げずにがんばってくれた従業員には、感謝の気持しかありません」。前から趣味だった旅行でも変化があった。以前は、行くこと自体が目的で、そのために一生懸命働いているようなところがあった。いまはじっくりと景色を眺め、何かを感じられるようになった。「反省して、前向きになってこれからもこの繰り返しで、病気と付き合っていくと思います」。(8月21日 朝日新聞 患者を生きる 膀胱取らずに治す より)