膀胱がんは膀胱内側の表面にある粘膜にでき、その下の筋層、しょう膜と外側に向かって進む。がんが粘膜にとどまっている早期は、尿道から内視鏡を通して削り取る方法で治る。がんが筋層まで進み、転移がなければ、膀胱を取る全摘手術が標準治療だ。だが、全摘しても、再発や転移などで約半数が亡くなるという。大阪医科大の東治人教授(52)は全摘でも再発するのは「転移が見つからなくても実際にはがん細胞が膀胱以外に広がっているから」と説明する。また、連載で紹介した有川勝己さん(41)のようにリンパ節などに転移がある場合は手術せず、放射線療法が原則だ。全摘手術が標準治療になる患者でも、手術できない場合や膀胱の温存を希望した場合には、温存療法が選択肢になる。大阪医科大や筑波大などがそれぞれの特殊な技術で実施している。ただし、がんの状態によって温存療法ができないこともある。通常の化学療法は、抗がん剤の点滴薬を静脈から入れる。抗がん剤は心臓を通って全身の動脈に回るため、膀胱に達するのは全体の一部だ。そこで、東さんらは膀胱のすぐ上流の動脈を風船でふさいで血流を止め、高濃度の抗がん剤を直接流し込む「バルーン塞栓動脈内抗がん剤投与法(BOAI)を開発した。高濃度の抗がん剤が全身に回らないよう透析装置を使って取り除くので、副作用は少ない。膀胱がんは、この方法に都合のいい条件がそろっている。膀胱は動脈の下流にあるので、血液を止めてもほかの臓器に損傷を与えない。膀胱がんは抗がん剤の効果が高く、また膀胱自体が原始的な臓器で激しいダメージを受けても機能は戻る。全摘手術の138人では10年後の生存率が約50%だったのが、BOAIに放射線療法などを組み合わせた温存療法の163人では約80%と高かったという。だが、保険で認められている抗がん剤の使用法は静脈から。適用外のBOAIはこの治療だけで約100万円が自己負担になる。保険適用の申請には治験が必要で、製薬企業に利益がないため、実現は難しいという。(8月22日 朝日新聞 患者を生きる 膀胱取らずに治す 情報編より)